あなたの渡せなかったチョコ、僕が回収します

バレンタインデー企画

「よし、ではこの辺で」

僕は看板を持ち、学校近くの公園の入り口に立った。

「あなたの渡せなかったチョコ、僕が回収します。」

スポンサーリンク

現実(陰キャ)としての僕

僕はこれまで、地味キャラ、陰キャとして3年間を過ごしてきた。

運動はできず、委員会は「生徒会」と「図書委員」。

課外で打ち込んできたものと言えば、ブログを3年ほど自分の世界を書き続けた。

動画チャンネルも多少だが、カオス系の動画を投稿している。

ペンネームは「卿介」。サブネームとして「漆黒の賢者」を称している。

読者は1名だが、アクセス解析によると更新すれば毎日のように見に来てくれているらしい。

いいのだ、僕の世界が分かってくれる人が1名でもいるならば、その人のために投稿する!

作戦を思い立ったわけ

で、なぜこのようなことなことをしているか。

中学最後のバレンタイン、ブログのネタとしても何かしようと思い立った。

……人生初のチョコもついでに期待して。

作戦の概要

そもそも親しい友達がいない僕が、突然の思い切りでチョコをもらうのは難しい。

そこで、不要のチョコの回収、というアイデアを思い付いた。

うちの学校では「放課後、公園で渡す」というのが習わしで、そこにいち早く到着しチョコを回収する、というのがミッションだ。

作戦開始しばらくして:成果はまだない

どのぐらいの時間が経過しただろうか、通り過ぎる人は皆、興味深そうな視線をこちら向け、軽く笑うだけ。

ええい、笑うな。こちとら人生かけたネタをやってるんだよ!

く、これだから下界の人間は……

くく、異端を笑うことが趣味の悪趣味の下郎よ……

初めてのチョコは涙の音がした

人も最初来た頃より、少なくなってきた。

これは0確定かな、と思っていたところ、一人の女子がやってきた。

勘違い

何度か、ここを行ったりきたりして様子をうかがった後、チョコを紙袋に入れた。

その、あまりに寂しそうな姿に思わず僕は声をかけてしまった。

「あ、ありがとう。で、でもバレンタインだけじゃないから、きっと他にチャンスが」

ここまでスラスラ言えていたか、自信がない。

なにせ、僕は女の子とほとんど会話らしい会話をしたことがないのだ。

間違いなく、彼女は泣いていた。

聞くところによると、どうやら相手には既に恋人がいて、ずっと勘違いしていたそうで。

やばい、気まずすぎる!!

「ご、ごめん。何も知らなかったけど……そ、その……元気出してほしくて」

当然、これもスラスラなんて言えてなく、相手にどう聞こえてるかどうかも怪しいもんだ。

(く、下界の民の言葉は難しすぎる)

「チョコ食べていいけど、手紙は読まないで」

「わ、分かった」

……う~ん、重いな。

僕は今、この企画に対して後悔し始めた。

一言多かった

また、一人やってきた。その子も泣いていた。

言葉にならない言葉で色々と話してきたけど、要約すると

『渡す時に一言、上から目線的に余計に言っちゃって、相手が怒って受け取り拒否した』

とのこと。

確かに、この子は一方的に話してきた。僕も「あ」「うん」ぐらいしか話していない。

よくしゃべる子だなぁっと思った。

「悪いけど、僕も受け取れないよ。後で、ちゃんと話して謝って、その時渡せなかったら、またおいで」

一応、いっておくが、こんなスマートにズバっと言えたわけじゃない。

どもりにどもり、言い直しに言い直して、ようやく相手も理解してくれた感じだ。

その間、その子も落ち着いてくれたようだったのが救いだった。

我、イタズラのチョコ爆撃に遭遇す

目が合った時に嫌な予感はしていた。

『七谷亜希』

髪の毛もちょっと派手目な感じ、カーストトップな感じという雰囲気だろうか。おそらく色々な噂もあるんだろうが、いわゆる「陽キャ」だ。

彼女はちょっと笑いかけると。コンビニ10円チョコ数個を袋に入れた。

「ど、どうも」

(いや、マジ冷やかしなら帰ってくれ)

「(チョコ)どんぐらいあるの?」

そんなたわいのない会話を交わした後、彼女が「手伝うから」と言ってスマートフォンをいじりだした。

陽の女子集団登場!

それほど時間が経たないうちに、僕はモテていた。

……と、いうよりも、陽の女子集団が面白がって群がり始めた。

コンビニチョコをじゃらじゃら入れ、スマホで2ショットしたり。

(こいつら、何がこんなに楽しいんだ?)

と、思ったりもした。

しかし、思惑は違えど、この「人生初モテ」も気分が悪いわけじゃなかった。

(これは、七谷に感謝しないとな)

怒られる

楽しい時間は束の間で、僕は職員室で怒られていた。

さすがに、目立ちすぎたか、それとも学校に連絡が行ったのか。

僕は誰にも迷惑かけていないのに。

とりあえず謝り、「最初にもらったチョコ」だけは、理由を話して没収されずに済んだ。

「よし、もう、帰るか」

こういう時は開き直るのが一番だと思う。

誰も恨まいし、何も思わないから悲しくもならない。

アイツがいた

校門を出たぐらいから声をかけられた。

『七谷亜希』だ。

「めっちゃ怒られた?」

と聞かれたので。

「そこそこ」

とだけ、答えると、彼女は何とも言えない表情をした。

「いや、七谷のことは何も言ってないよ」

と言ったら、すかさず彼女は言い返してきた。

「いや、悪い事したかなぁ、って」

正直、意外だった。

「気にしなくていいよ。」

てっきりネタにしてたんじゃないかと思ってた。人は見かけによらない、とはこういうことか。

「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

いくらか、簡単な会話をした後、唐突に彼女が言い出した。

真名(ハンドルネーム)バレ

「あんた『卿介』でしょ?ブログの。闇の住人だっけ?」

あまりに驚いてしまい、即答してしまった。

「『闇の賢者』だ。ってか、なんで(知ってるの)!?」

この時、応えずに否定しておけば良かった、と思ったが時既に遅し。

「いやだって去年のこの記事で、同じ学校の子かなぁって」

彼女はスマートフォンで僕の書いた記事を出す。

……よく覚えてるじゃないか。僕はすっかり忘れてたぞ。

「そしたら、この前の記事で『チョコゲット作戦』っていうのが……」

『声明』というタイトルの記事を見せてきた。

本当、よく見てるな……絶対に身バレしないように注意したつもりなのに。

「もしかして、僕のブログの一人の読者様って……」

ほぼ、その答えを確信しているが、念のために聞いてみることにした。

「私だよ。読者登録してる」

人生初チョコ

「じゃん、読者様から」

そういうと、彼女はチョコを取り出し、僕に渡した。

「あ、ありがと……」

正直、嬉しい。が、これ以上、なんて言えばいいのか分からない。

ちゃんとした形で受け取るチョコは、これが初めてなのだ。

「お礼は期待してるからね、う~ん、何してもらおっかな」

人生初のチョコに驚きつつ、曖昧な返事をしていたら、彼女が言ってきた。

「私もネットで何かしたい!…だから、色々教えて!」

スポンサーリンク

お礼

「いや、色々と簡単だから、やりたければ始めちゃえばいいんじゃないかな?」

正直、今どき、ブログにせよ動画にせよ、サービスは充実している。

何も人に頼らなくたって……

それに、僕だって特に活躍しているわけじゃない。

彼女はこう返答する。

「だってこの前、動画とかもアップしてたでしょ?ああいう編集とかってどうやるの?」

「撮影だってやってほしいし」

彼女は立て続けに言う。

「わ、分かったよ。手伝うから」

「やった!!ほら、私ってかわいい方でしょ。絶対うまくいくって!」

彼女は、満面の笑顔を見せてくれた。

う……確かにかわいい。

「でも、それで人気が出るかは、別軸だよ」

と、言っても彼女は聞く耳を持たないようだ。

まぁ、結果はすぐに分かるし、時期に分かるだろう。

テキスト主体のブログですら、「1年」続けて書く人の方が少ないのだ。

僕がブログを書くきっかけとなったブログも今は更新を止めている。

ホワイトデーに向けて、やることをまとめる

とはいえ、頼みを断るわけにもいかないので、ホワイトデーまでに、一応、企画をまとめることになった。

ブログ・SNS・動画・配信ライブ……

機材……PCとか持ってるのかな?

七谷はもう成功するつもりでいるのか、テンションがいつもより高い。

ともかく、チョコゲット作戦は、こちらの思惑とは違った方向で成功し、思わぬ方向に展開していくのでした。

……という、妄想にふけっていた。

スポンサーリンク
 
【読者登録をして新着の通知を受け取る】